新・しみつの京都 甘味処編・・その2「今宮神社のあぶり餅」 | ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

テロワールにより造り手により 変幻の妙を見せるピノ・ノワールの神秘を探る

2023年2月11日(土・休日)

上賀茂神社の2軒のやきもちを立食いした後、境内を散策したがまだ9時過ぎである。

つぎに向かうのは今宮神社で、ここのあぶり餅は1000年の歴史がある日本最古のスイーツと

言われている。

わたしはすでに何回か訪問しているが、友人のSはもちろん初めてである。

 

丁度やってきたタクシーを捕まえて、「今宮神社まで」と伝えると、

「あぶり餅を食べに行かはるんですか」と返ってきた。お見通しである。

こちらから聞いたわけでもないのに

「2軒お店があって、どっちがお勧めかよくお客さんから聞かれますが、

 食べ比べてみたらどうですか、と答えています」と言う。

 

10分ほどで今宮神社に着いたが、まだ9時半である。

境内には数人の参拝客がいたが、あぶり餅屋さんの開店時間は10時で、まだ時間がある。

9時45分くらいになると、人々は東門を出てあぶり餅屋さんの前でたむろしていた。

 

東門からの道を挟んで2軒のあぶり餅屋さんがあり、

北側(左)が「一和(一文字屋)」、南側(右)が「かざりや」である。

1000年前からあるのは一和だそうだが、かざりやも400年の歴史があるそうだ。

 

9時50分くらいになると、かざりやから店の人が出てきて

「ここを先頭にお並び下さい」という看板を立てた。

するとすぐに15人くらいの列ができて、9時2分前にぞろぞろと店の奥に案内されて行った。

 

一方左側の一和の前は人はまばらで、9時になってようやく雨戸を開けて案内が始まったが、

われわれ含めて数人が入店したのみである。

どう考えてもかざりやの方が商売が巧い。

 

わたしはどちらの店でも食べたことはあるが、正確な特徴までは覚えていなかった。

しかし今回は一和に先に入ることに決めていた。

 

その理由は、食には1ミリも妥協しない上七軒のおかみさんが

「自分が好きなのは一和どす」と言っていたからだ。

このおかみさんこそ、もめんやつか本に100回くらいご一緒している京の食の達人・師匠で、

食に関してはまったく頭が上がらない。

 

一和のあぶり餅 1人前11本 600円

 

きな粉をまぶした小さな餅を炭火で炙って焦げ目をつけ、白みそのたれをつけて食べる。

温かくてとても香ばしく、ここでしか体験出来ない逸品である。

小さな餅には適度の歯ごたえがあり、嗅覚と味覚と歯の触覚のすべてで楽しめる。

持ち帰りも可能だが、こんなものここで食べるしかないだろう、と思う。

 

餅の1つ1つは小さくて、1口ですぐに食べられる。

朝からやきもちをたった?3個しか食べていないので、あっという間に11本食べてしまった。

まだまだ満腹感はないし、友人は大食漢である。

食べ終えた後、さっさと向かいのかざりやに移動した。

 

一和のあぶり餅 1人前11本 600円

 

2軒のあぶり餅は同じように見えても、続けて食べると相当味わいが異なるのに気付く。

串に刺した小さな餅を炭火で炙って、白みそのたれをかけるというのは同じだが、

一和の餅は細長で歯ごたえがあるのに対し、かざりやの餅は丸くて柔らない。

 

それ以上に異なるのは白みそのたれで、明らかにかざりやの方が濃くて甘い。

一見さんにも印象的で分かりやすいのはかざりやで、淡泊ながらキリリと仕上げたのが一和だ。

 

上賀茂のやきもちのように、「ポリシーが異なる似て非なるもの」ではなく、

同じDNAを持つが、長い時間を経て分化し、それぞれの形質を獲得するに至ったものである。

(仲野徹 著 岩波新書「エピジェネティクス」参照)

 

なので、何れが美味しいかなどという問いはナンセンスだ。

これはもう、どちらが好きかという好みの問題である。

 

わたしの答え。

2軒で1人前ずつ食べた後、今からもう1人前食べるとしたら一和にする。

別の日に、いずれか1皿しか食べられないとしたら、迷わず一和を選ぶ。

 

同じピノ・ノワールでも、北の冷涼な地域の畑と南の日当たりが良い畑では

出来上がったワインが異なるように、北と南ではあぶり餅でも味わいが異なるのだ。

南のかざりやが濃厚で糖度が高いみそ仕立てになっているのも、緯度のなせる技なのか?(ウソ)

 

わたしはキレイな酸味があって、繊細で糖が出しゃばらないピノ・ノワールが好きなのである。

あぶり餅も同じ。

 

新・しみつの京都 甘味処編・・その3「北野天満宮・澤屋の粟餅」に続く。